ベストセラー「君の膵臓を食べたい」の作者、住野よるが描く初の恋愛長編小説。
あなたにとっての「特別」なもの、見つけられましたか?
「この気持ちもいつか忘れる」は、自分にとっての「特別」とは何か、「特別なもの」とどう向き合っていけばよいのかを、主人公を通して考えさせられる青春小説です。
また、小説と音楽がコラボレーションした、作中に登場する曲を実際に聞くことができる特典もついています。
読み終わった後に聞くと、物語をより深く味わうことができますよ!
それではあらすじを見ていきましょう。
「この気持ちもいつか忘れる」あらすじ
主人公は、退屈な日常に絶望している高校生、香弥。
何をやったってつまらないと嘆きながら、迎えに来てくれるかもしれない「特別な何か」をただひたすら待っていた。
そんな香弥にある日転機が訪れる。
ランニング中、いつも立ち寄るバス停の休憩所で不思議な体験をすることになる。
それは、淡く緑色に光る目と爪しか見えない少女「チカ」との出会い。
チカと話すうちに分かったことがいくつかある。
住んでいる世界が違うこと、同じ生き物では無いこと、そしてチカの世界には恋愛という概念が無いこと。
香弥はチカとの出会いが「自分の人生を特別にしてくれる糸口になるかもしれない」と人生に喜びを感じ始めていた。
会う度に、だんだんと会いたいという気持ちが強くなっていく。
いつの間にか香弥の中で、チカと話している時間が一番大切なものになっていった。
「突風のような青春」を生きる香弥を通して、「あなたの一番大切なもの」との向き合い方を考えさせられる一冊です。
「この気持ちもいつか忘れる」の感想
ここからは私が「この気持ちもいつか忘れる」を実際に読んでみての引用と感想です。
ふりをしながら生きる
「私達は、皆、”ふり”をしながら生きるものだと思うの。
中でも最も大きなふりは、納得したっていうふりと、好きだってふり。」
これはチカが香弥に話した言葉です。分かりづらければ、ふりは嘘と同じような意味だと思ってください。
恋人や相手のことを理解したつもりでいる「ふり」、自分を良く見せようと大人びた音楽や本を好きだという「ふり」、誰しもが生きる以上してしまうことです。
チカの「一日の中で一番大切な時間は何?」という質問に対して、
香弥は「自分の生活の中で特別に大切なものは何もない、途方に暮れている」と答えます。
自分の弱みを話してくれる香弥に対して、「ふりをしないんだね」とチカ。
物語の中で、チカは「ふり」に敏感でいます。
なので、香弥が無意識にしてしまった「ふり」にも後になって気づくことになります。
”好き”という激しく沸き起こる感情は、まだ高校生の香弥ではうまくコントロールできません。
チカを好きだという裏腹、嫉妬や羨望など汚い感情だってもちろんあるんです。
そんな汚い感情があらわになったとき、初めて見える「ふり」。
香弥にとって特別なものがチカしかなかった。だから盲目になってしまっていた。
物語の中で特別な存在に対して無意識にしてしまう「ふり」は重要なキーワードになっているので、探しながら読んでみてくださいね。
本物の濃度
あるとき、香弥の兄にバス停の休憩所で2人が話しているところを見られたことがありました。
しかし、兄に見えたのは香弥の姿だけ。
この出来事から、繋がっているのは場所ではなく、2人なんだということに気づく。俺たちだけ。
嬉しさもあった反面、香弥はチカが存在する証明が他人にできない以上、チカは自分の空想の人物かもしれない、という可能性にも気づきます。
そんなことを思う香弥に話したチカの言葉が私はとても好きです。
「でも、たとえ、カヤの存在が私の空想だったとしても、私はいいよ。私が、私の中のカヤを大事にする」
あなたが生きている世界だって、本当はあなたの空想で、存在しないものかもしれない。
でも、もしここが夢の中だとしても、カヤに会えてよかったとチカは言います。
夢かもしれないと思うなら、この世界を現実に変えていくしかない。
私たちにとっての本物の濃度をあげていくしかない、と。
もし、あなたの特別なものが、他の人から見えない、理解されなかったとしても、それを特別に想うことを辞めてはいけません。
なぜなら、それを現実に、本物にするのはあなたがどう思っているか次第だから。
チカが、カヤがもし空想だったとしても大事にする、と言ったように、自分の中で空想を現実に変えていこう。
あなたにとっての特別なものが、特別であり続ける限り、記憶や希望に形を変えてあなたにに寄り添ってくれるでしょう。
「この気持ちもいつか忘れる」のまとめ
「この気持ちもいつか忘れる」の見どころは、香弥にとってチカが特別なものになっていく若々しい感情の変化。
そして、過去になってしまった「特別な日々」と向き合う、大人になった香弥の思考の変化です。
後編の「誰も望まないアンコール」では、チカと初めて会ってから15年の月日がたった香弥の姿を追うことになります。
この後編で香弥は、自分にとっての「特別」に縛られすぎています。
どんなに大切なものでも、夢中になりすぎて周りが見えなくなってしまってはいけません。
果たして香弥は変わることができるのか、救いはあるのか、これ以上はあなた自身で読んでみてください。
自分にとっての「特別」なものを見つけられていない人、「特別」なものとの向き合い方が分からない人は香弥に共感しやすいと思います。
あなたの人生を変える「特別」に出会ってみませんか?