「君の膵臓を食べたい」の著者、住野よるが描く学校のいじめ問題。
集団の中の決めつけに従っているだけではないのか、見て見ぬふりをして何も知らず過ごしているままで良いのか。
私にとって、そんなことを気づかせてくれるのが「よるのばけもの」でした。
あなたの周りでいじめが起きている、過去に周囲でいじめがあった、という学生の方は共感しやすいと思うので、特に読むことをおすすめします。
それでは早速、あらすじから見ていきましょう。
「よるのばけもの」あらすじ
舞台はとある中学校。
主人公は深夜になると体がばけものに変わってしまう少年、安達。周囲からは「あっちー」と呼ばれています。
化け物の姿になると、全身が真っ黒の粒に覆われ、足は6本、目は8個、尻尾は4本と恐ろしい形相に。
だが、本人からすると恐ろしいと悲観することもなく、どこへでも行ける化け物の姿での夜を満喫していた。
そんなある日、安達は宿題を持ち帰るのを忘れてしまい、化け物のまま学校に向かうことになる。
なんとか教室に忍び込んだ安達だったが、なんとそこには一人の少女が。
その少女とは、とろくて、空気が読めない、言葉を変なところで区切る、「矢野さつき」だった。
矢野はクラスで起こしたあることによって、周りから避けられ、いじめられている。
なぜ深夜、学校に居たのかというと、「夜休み中」だったからなのだ。
いじめられている矢野は昼の学校ではまともに休めない。
だから深夜の一時間だけも学校で気楽にいられるようにと、学校が配慮した特別な時間だった。
「明日、もうちょっと早くここに来、てよ」。
来なければ正体をばらすという強迫にも聞こえた安達は、仕方なく了承し、2人だけの夜の密会が始まることになる。
「よるのばけもの」を読んでの感想
ここからは実際に読んでみての感想です。
矢野がいじめられるようになった原因
いじめには、理由があるんだと思う。きちんと理由があって、いじめが始まる。行動とか人柄とかそんな些細なものだって、ちゃんとした理由だ。
安達のクラスのいじめは、いじめられている方に理由があり、矢野が悪い。
それはしてしまったことを考えても、明らかである。
同じクラスに緑川というおとなしい女の子がいた。
緑川は学校にいる間、ほぼ無口で一人でずっと本を読んでいるような子だった。
ある日、矢野が教室に来てすぐ、緑川が読んでいた本を取り上げ、窓から投げ捨てた。
その瞬間、普段は感情を全く出さない緑川がその場で泣き出してしまった。
しかも、矢野は緑川に謝りもせず、にんまりと笑っていた。
この場にあなたがいたら、矢野という少女が普通だと思えるでしょうか?
いじめられるようになってからも、にんまりと笑っているので、周囲から気味悪がられます。
少なくとも、安達は矢野を見て普通ではない、理解できない、と感じていました。
うまくやればいじめられることなんてないのに、と。
それもそうですよね。私も読んでいたときは、これはいじめられていたとしてもしょうがない、と思いました。
いじめというものは、どこか「どうしようもない」「しょうがない」一面があるように見えます。
それでも、「矢野がなぜ緑川に対してそんな行動をとってしまったのか」。
「よるのばけもの」を読みながら考えてほしいです。
本当の矢野と安達の葛藤
でもひょっとしたら彼女が、必死に自分なりに考えて行動し、生きているんだとしたら、どうだ。
安達は、緑川の事件があってから、矢野のことを「極端な考え方を持った頭のおかしな奴」という印象を持っていました。
そんな中、安達が化け物の正体と矢野に知られてからというもの、夜休みに会って話すことを続けています。
夜休みの密会を重ねていくと同時に、安達には一つの疑問が生じていました。
それは、「矢野さつき」はみんなと同じような普通の人間なのではないか?ということ。
安達と同じミュージシャンが好きなこと、ジャンプを読んでいること、金曜ロードショーを楽しみにしていること。
いじめられて周りから浮いている割には、矢野の好みや考え方はみんなと同じような普通のものばかり。
もし緑川の事件も矢野が必死に自分なりに考えてやったことだとしたら…。
そんなはずはない。もし彼女が普通の人であれば、いじめられている中、にんまりと笑えていられるはずがない。
そもそも本当に面白くて、そんなに表情になっているのか?
矢野のことを変な奴だと決めつけておけば、無視されていようがいじめられていても、当然のことだと思える。
しかし、自分は見て見ぬふりをしているのではないか、と安達は葛藤に襲われます。
確かにいじめられるのにも理由はある。
しかし、いじめられるほどのことをするにも理由はある。
そして周囲を敵に回すほどの覚悟もいる。
「矢野さつき」という本来愛されるべきキャラクターを理解したとき、あなたはきっと切なく、愛しくなるでしょう。
「よるのばけもの」まとめ
「よるのばけもの」の見どころは、集団を重んじる安達が矢野によっていじめの真実を知ることになり、どう変わっていくのか。
あなたの周りで、もしいじめが起こっている、または、過去に周囲でいじめがあった、という経験がある方は本書により共感できると思うので読んでみることをおすすめします。
あなたのまま、どうかできることを見つけてあげてください。